「たっだいまー!」
ギルドハウスのドアを蹴破る勢いで会長が帰ってきた
いつものごとくソファーで猫のファースと寝てた俺は寝ぼけ眼を擦りながらドアの方を見ると
見慣れた会長ともう一人見慣れないナタネモフモフファーコートを着た人がいた。
「ほれほれ、ガンマル〜 そんな所で寝てないでお茶出して!あとお茶菓子も出して!!ハリーハリー!!!」
あいも変わらずテンションの高い会長に急かされ、寝起きの体を無理やり起こしてお茶の準備をするべくキッチンに向かう
リビングでは会長とコートのフードを目深に被った人がソファーに座ってなにやら話をしている
キッチンからじゃ何を話ししてるか聞き取りづらいが難しい話ではなさそうだ。
半分寝ながらお湯を沸かし戸棚からガトーショコラを二つ出して準備する
正直言って自分でやれよ・・・と思うけど今更言ってもしょうがないので自分の分のお茶も準備する
自分の分にエスプレッソマキアートを、会長とお客さんの分にカプチーノを二つ準備してリビングに向かう。
会長はお客さんに向かってうちのギルドの説明を熱心に、手振り身振りを交えてやってた。
どうやら、ギルドへの勧誘のようだった。
お客さんの方は小さく頷きながら聞いているようだ。
邪魔をするのも悪いからガトーショコラとカプチーノを出すと、俺は自分の部屋に戻った。
その後、カプチーノが苦いって言って俺の部屋に怒鳴り込んで説教食らったのはまた別の話・・・。
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それから数日後、会長からみんな呼び出しを食らった。
何人かはクエストの為にダンバートンを離れていた為集まらなかったが手隙の人間はギルドハウスのリビングに集合していた。
そこに会長と、あのファーコートの人が入ってきた。
「はーい、みんな注目ー!注目して無い子は無理やり顔をこっちに向かせて固定するから注目ー!!
んじゃ、今日からギルドに入る事になったアクビットさんだよー!みんな虐めたら3年殺しの前に即日殺しだからねー!」
ケラケラ笑いながら会長が紹介してる。
アクアビットさんは相変わらずコートのフードを目深に被り素顔が見えない
「・・・・アクアビットと言います。アクアって呼んで下さい。よろしくお願いします・・・」
あまり大きくない声で自己紹介をするアクアさん。
その後はその場にいたメンバーで自己紹介大会になった。
無難と言えば無難、だけどこの時俺の勘にすこしだけ引っかかる物を感じた。
アクア君がギルドに加入して数ヶ月がたった。
これと言って問題も無く日々平穏無事に過ぎていった。
毎日誰かしらダンジョンに出かけ、誰かしらクエストをこなしに行き、誰かしらギルドハウスで留守番と猫の世話をする日々が続いていた。
この日俺はマスダンジョンから二日ぶりに帰ってきた。
ダンジョンの最深部にあるエンチャントスクロールを探しに行ったんだが徒労に終わった
だがコボルトからせしめて来た金貨や革類を換金して予想以上の儲けが出ていた。
これなら当分は生活費に困らなくてすむし、武器や防具の修繕費。それにポーションの買い溜めも出来る。
まだ日は高いが今日の所はこれぐらいで済ませて、さっさとギルドハウスに帰る事にした。
それに二日間埃っぽいダンジョンに篭ってたせいで体が気持ち悪い。
こんな時は風呂に入ってさっぱりして冷やしたカクテルでも飲んでゆるゆるしてるのがいい。
そんな事を考えつつギルドハウスに帰り着いた。
自分の部屋に帰り、さっくり装備を外し着替えとお風呂セットを持って風呂場へ向かう。
うちのギルドのいい所の一つに24時間何時でも入れる大きめのお風呂があるってことだ。
これは会長のわがままで作られた物だけど、こんな時はとても助かる。
ただ、うちのギルド圧倒的に女性が多いため男の俺は入る時にとても気を使う・・・。
風呂場でかち合って、チカンなんて言われた日には会長から即日殺しの刑を食らう事は確実だ。
何時も通りに風呂に向かい、手早く着てるものを脱いで風呂の扉を開けるとドアの向こうに誰か居た。
やばいっ!誰か入ってた!?でもだれだ?
目を凝らして相手を確認しようと思った瞬間、湯煙の向こうから綺麗な足が孤を描き俺の後頭部にヒットした。
そこで俺の意識はプツリと途切れてしまった。
次に目が覚めた時にはリビングに居た。居るには居たがなんで景色が逆さまなんだろう・・・?
理由はすぐわかった。天井の梁から通されたロープで逆さまに吊られてた。パンツ一枚つけた状態で・・・。
周りを見渡すと会長に、参謀さんアクア君やゆえさんが居た。
「ふーふーふー ガンマルぅ〜 なーんでこんな事になってるか身に覚えがあるかな〜?」
会長がにこやかだか怖い微笑みを浮かべ俺を見てる。
参謀さんやゆえさんアクア君もこっちを何とも言えない表情で見てる。
「んーと・・・確かマスから帰ってきて風呂に入ろうと思って・・・」
「そう、そしてなんで脱衣所で寝てるのかにゃ?」
会長が逆さに吊られた俺に顔をずいと近づけてくる。
「あんな所でガンマルが全裸で寝てるからとんでもない物見る羽目になったじゃない!この露出魔!!」
「ちがうって!風呂に誰か居てそいつに何かされたんだよ!!」
俺は慌てて弁解するが、聞いてはもらえない。
「とりあえずこんなガンマルにはお仕置きが必要だよねー。7年殺しと即日殺しどっちがいい?」
「できればどちらも無しの方向でお願いします・・・。それに俺なにもしてないじゃん!何で俺が逆さに吊られてお仕置きなわけさ!?」
「うっさーい!会長の言は絶対なのです!という事でガンマルは有罪!!」
その後ひたすらくすぐられ、息も絶え絶えになったのは出来れば内緒にしたい出来事だった・・・・・。
それから数日たったある日アクア君が俺の所にやってきた。
用件はというとフィアードダンジョンに一緒に行こうと誘ってくれたのだ。
ちょうど暇をもてあましていた俺は二つ返事でOKし、一緒に行く事にした。
フィアードダンジョンはダンバートンからバンホールに向かう道を少し外れた所にある森林地帯にあるダンジョンだ。
ダンジョンと言っても洞窟や地下迷宮といった類ではなく、森の中の遺跡と言った風情のあるところだ。
だが、その遺跡が入り組んでいるのと、精霊たちの呪いのおかげでダンジョンと呼ばれている所だ。
俺も何回か来た事はあったが、ジャッカルやベアウルフ等の魔物に苦戦を強いられた事がある苦い思い出のあるダンジョンだった。
俺とアクア君は最深部を目指し順調に突き進んだ。
お互いにカバーし合い、常に立ち位置と敵の場所を考えながら一匹、また一匹と敵を屠って進んだ。
順調に進んでいた俺たちの前にゴルゴンという一つ目の牛のようなモンスターが出た。
こいつの皮膚はやたらと硬くて、グラディウスの刃も通りにくい。
おまけに必ずペアで出てくるおかげで一人でフィアードに来ると返り討ちにあうこともある危険なモンスターだ。
だが、今回は二人いる。
それぞれ一匹ずつ相手にしていれば問題が無い。無いはずだったのだが・・・。
ドガッ
俺は上手い事ゴルゴンにカウンターを当て距離をとる事が出来た。
セオリー通りファイヤーボルトを詠唱し、ダメージと再度相手との距離を開けることに専念する。
横目でちらっとアクア君を見ると今まさにゴルゴンの突進を盾で受け止める瞬間だった。
あっと思ったが既に遅かった。
受け止めたゴルゴンにメイスで殴りかかったが、敵の防御力にメイスの打撃を受け止められ体勢を崩していた。
そして次の瞬間ゴルゴンからお返しとばかりの角の一撃をもらってしまった。
グッタリと地面に横たわるアクア君。そしてアクア君が相手をしていたゴルゴンが次の獲物は俺だとばかりに突っ込んでくる。
まだ、俺の相手してる分も死んではなく、突っ込んできていた。
2匹を相手に一人で大立ち回りは少々危ない。
そう判断した俺はカバンから爆弾を取り出すと起爆ピンを抜いて、目の前に放り投げた!
閃光と衝撃でゴルゴンたちが怯んでいる隙にウィンドミルを使う。
上手い具合に二匹とも巻き込み吹き飛ばす事が出来た。
1匹はそれで仕留める事が出来たが、もう1匹は起き上がるとゆっくりと俺に向かって歩き始めた。
相手が防御体勢にあると踏んだ俺はスマッシュを食らわせるべく全力で駆けていった。
何とかゴルゴンを倒す事が出来たが、アクア君はすぐに動けるような物じゃなかった。
手当てを済ませ、安全に休める所まで運び野営することにした。
パチパチと薪が爆ぜる音がする。
フィアードのいいところは地下じゃないから空が見える事だ。これだけでも大分ありがたい。
空にはウェイカの月がちょうど真上に見える。
夜も大分更けてきた頃アクア君の意識が戻った。
「アクア君大丈夫?」
「はい・・・何とか動けそうです・・・・」
「それは良かった・・・だけどどうしよう?このまま最深部まで行く?それとも引き返す?」
俺としては引き返してきちんとヒーラーに見せてあげたいが二人で行動してるんだし我を通すわけにもいかない。
それに、アクア君も冒険者として生きてきてるんだし自分が大丈夫かそうじゃないかぐらいの判断はつくだろう。
「大丈夫です・・・打ち身ぐらいですからいけますよ・・・・」
「わかった。でも無理そうだと思ったら声かけてね。」
アクア君はコクリと頷き体を起こそうとする。
俺はそれを制し一晩ゆっくり休むように言った。
夜明けまではもう少し時間がかかりそうだった。
一晩空けて朝露に木々が濡れる頃俺たちは最深部へと向かう為再度動き始めた。
俺は少々寝不足な感じもあったけれど、そこまで尾を引きずるような感じでもなかった。
アクア君も一晩休んだおかげで前と同じぐらいに動けていた。
そして、ついに一際大きな鍵の付いた扉の前に到着した。
そこがフィアードダンジョンの最深部、ボスの部屋の前だった。
チラリとアクア君の方を見るとこちらを見ていた。
相変わらずフードを目深に被っているけど目があった。
俺は深く頷くとアクア君も同じように頷いた。
俺はゆっくりと鍵を開け、ボスの居る部屋に突入した。
ボス部屋にはスモールゴーレムとフライングソードが待ち構えていた。
「まずフラソ(フライングソード)を倒してしまおう。ゴーレムと戦ってる時に狙われたらどうしようもないからね」
アクア君に伝えると俺は手近なフラソにスマッシュを叩き込んだ。
こいつらは大して強くないからすぐさま片付ける事が出来た。
そしていよいよスモールゴーレムと斬り合う事になった。
アクア君がセオリー通りのファイヤーボルトとカウンターを駆使してなるべくダメージを食らわないように戦っていたが・・・
いきなり、スモールゴーレムがその体を巨大化させた!
そう、俺は失念していたんだ。スモールゴーレムは危険を感じると体を巨大化させる事を!
そして奴はストンプを使うべくその巨大な腕を振り下ろした!!
地面が揺れ、その巨大な力に地割れが起きる!そしてその先にはアクア君が居た。
衝撃に叩き飛ばされたアクア君のローブが裂け、壁にもたれ掛っていた。
俺は頭に血が上り、すでにスモールじゃなくなったゴーレムに向かい突っ込んだ!
スマッシュ、カウンター、ウィンドミル。
使えるスキルをフルに使いゴーレムを追い詰める。
そして最後の一撃とばかりにゴーレムの胸にクレイモアの刃を突き刺した!
ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・
空気を震わせ、断末魔とばかりの音をだしながらゴーレムが崩れ去っていく。
その音を聞きながら、俺はアクア君のところに駆け寄った。
なにせ、昨日のゴルゴンから貰った傷も完治してないだろうに、ここにいたってゴーレムのストンプをまともに食らったんだ。
それに着ていたローブも裂けている・・・。どんな重症だろう、早くダンバに運ばないと、そんな事を考えた俺は己の目を疑った。
アクア君に傷一つ無かったのだ。
それはいい、傷一つ無いのは良いんだ。もっと問題なのはアクア君が着てる鎧がキリヌスジンハーフプレートアーマーの女性用だったって事だ。
一瞬だけあっけに取られてたが
「アクア君!大丈夫!?」
俺はアクア君の肩を揺さぶると
うっすらと目をあけて
「・・・・大丈夫です・・・・・キャッー!」
大声で叫ばれた・・・耳がキーンとする・・・・。
何とか落ち着かせると、事の核心を聞く事にした。
「アクア君・・・君って女の子だったんだね?」
「はい・・・黙っててごめんなさい・・・・」
うつむき加減で返事が返ってきた。
「にしても、どうして黙ってたの?言ってくれれば良かったのに」
「・・・・それは・・・・言おう、言おうって思ってたんですけど、この前お風呂でガンマルさんに酷い事しちゃったんで・・・・」
「もしかして、あれってアクアさん?」
顔を真っ赤にして頷くアクアさん
「いや、俺も不注意だったし・・・それにしてもギルドに入る時に言ってくれれば〜」
「・・・実は恥ずかしくて・・・・それでローブ着てたんです・・・・」
「おっけ、判ったよ。大体の事情は理解したよ。それにしてもローブで隠すとか無しにしようね?せっかく可愛いんだからさ〜」
ケラケラと笑いながら俺が言うとまた、顔を真っ赤にしてアクアさんが俯いた。
その後、ダンジョンから出てギルドハウスに帰る道すがら、アクアさんの素顔を見た時のみんなの反応を想像して思わず笑みがこぼれた。
そんな、昼下がりの街道だった。
了